浅野弁護士の所感

所感No・006「破産と報徳思想」(前編・「債務者」 側)
(記・2005年3月)

ある神社で開催された、江戸後期の農政家・二宮尊徳翁を顕彰する団体
の講演会に誘われて、参加してみました。
講演の演題が「日本再生と報徳仕法」との事で、古い道徳の話かと思って
おりましたが、内容は極めて現代的でした。

最初は、昔、学校にあった二宮金次郎の銅像やエピソードとは、どうも
結びつかなかったのですが、講演の内容は、予想した道徳論ではなく、
「現在の破産法、民事再生法は、二宮尊徳翁の報徳思想そのものだ」
との事で、職業柄、非常に興味深く感じましたので、「二宮報徳会」講師の
石戸谷慎吉氏の許可を得て、転載します。


1)日本の経済が回復しないのは、返せない借金を返そうとしているのが
  原因。借りた物は返すのが当然だが、不可能な事を頑張って続けて
  も、全体として立ちゆかなくなる。
  大体、担保に入れた不動産の価値が1/10になったから、借金も
  1/10になると全て解決するはずだ。
  しかし、現実には、そうは行かない。これが、現在の日本経済が
  どうしようもなくなっている基本的原因。

2)現在の破産法は、裁判所が、「この方は、借金があり、返す意志は
  あるが、返す能力が無い」と認めてくれる事である。
  免責許可とは借金を棒引きにしてくれる事だ。
  これは「徳を施された」と考えるべきで、まじめに働いて、施された徳を
  また世の中に返すべく頑張るべきだ。これは以徳報徳の一つだ。
  この基本的倫理観がなければ、ただの借金棒引きだ。

3)破産をすると、マイホームは手放さなければならない。
  しかし「給与所得者民事再生を申し立て、住宅ローン以外の借金は
  8割カットしてもらう」と、住宅ローンを払い続けて家を失わずに済む。
  これは、徳を施されたと思うべきである。
  ただ、問題は、収入から考えて、買うべきでないマイホームを買って
  しまった者が多い。これは分度(相応な生活の限度)を超えている。
  手放す事も躊躇すべきではない。

4)二宮尊徳翁の報徳仕法は元々、小田原藩の武士の家計の逼迫を
  再建しようと考え出され、実践されたのが最初だ。
  当時の給与生活者である武士の家計は貨幣経済の発達により、
  支出は増えるが、収入が増えない状況にあった。
  これを無利子の講(五常講)を藩からの出資金で設立して、順番に
  貸し出して、借りた者は、高利の借金を一括返済し、五常講に分割で
  返済して解決した。その為、徹底的な倹約が強調実践された。

5)明治維新により武士階級は消滅したので、この二宮尊徳翁の仕法は
  忘れ去られた。
  しかし、現在、給与生活者は同様な困難に陥っている者が多い。

6)弁護士に頼んで、任意の分割返済、破産、給与所得者民事再生法の
  適用申請といろいろあるが、徳を施して貰った、困苦精励、倹約して
  余裕が出来たら、いつかそれを世に返す(報徳)するという事を
  忘れるべきではない。

7)収入が減っただけなら良いが、会社が倒産して、収入が無くなる方が
  深刻な状況。従って、雇用の確保が日本経済の最大の問題。

8)法人の民事再生は雇用の確保が最大の目的。
  二宮尊徳翁の桜町領の再建は、現在の企業の再建と同じだ。
  法人の民事再生と同じだ。基本的に欠落しているのは、債権をカット
  された債権者は徳を施したと考えるべきで、借金をカットして貰った
  債務者は、徳を施されたと考えるべきだ。
  借金の減った債務者は、倹約、困苦精励して、今度は、徳に報いる
  事を忘れない事が重要だ。これが報徳の意味だ。

9)しかし、債権者としては、売掛金や貸金をカットされたら自分も倒産
  する危険がある。
  その場合は、自分も徳を施してもらう側に一旦は回ることだ。
  弁済が現実的に不可能な債権を返して貰おうとする事は無益だ。
  破産なり民事再生を申し立てる事が社会に対して責任を果たすと
  いうことだ。


−−以上です。

考えてみましたら、当職も、破産事件は法人、個人とも相当な件数を
扱いましたが、破産・免責の後、後悔した方は、今までのところ1人も
おりません。
多くの方が、「これだったら、もっと早く、破産すべきだった」と感想を
漏らしています。
確かに、現行の破産法は、余りにも破産者に有利な法律ではないかと、
以前から思っていました。
これを、破産者が徳を施されたと考え、その後、頑張るという倫理が
欠けていたのではないかと言われると、そうかなと言う気になります。

講師の方の言うとおり、現在は、民事再生法と言う法律もあります。
破産の前に考慮すべき方法であると思います。


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